宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

科学的管理法とホーソン工場の実験

 昼間は暑くても、朝晩は涼しくなりました。今日はお彼岸のお中日です。お彼岸の行事は日本独自のものだそうです。豊作祈願の「日の願い」が「日願(ひがん)」として、仏教の「彼岸」に結びついたという解釈もあるようです。そうかぁ。

 10月から始まる人間関係論の授業の準備を始めなければと思い、テキストを読み始めました。人間関係の重要性は言わずもがなですが、それが学問の一分野として登場するのは、20世紀初頭の経営学における研究からでした。その嚆矢は、「ホーソン工場実験」です。実験自体は人間関係を探るものではありませんでした。

 実験が行われたのは1924年から32年まで。シカゴ郊外のウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場でした。最初は、エレクトリック社と「全米学術協会」の「全国調査会議」が調査を行い、途中からハーバード大学のエルトン・メイヨーとフリッツ・レスリスバーガーたちが加わって、実施機関がハーバード大学になったという経緯があります。

 この時代の経営管理論は、フレデリック・テイラーが主張した科学的管理法が主流でした。科学的管理法とは、それまで工場労働者の主観的経験や技能に頼っていた作業を、客観的・科学的に整理して管理する考え方です。

 テイラー・システムと呼ばれるこの手法は4つにまとめられます。①作業量の設定:一日のノルマを、労働者の動きを実際に観察し、客観的に導き出します。②作業手順:作業の条件や流れをマニュアル化します。熟練工の効率性の高い動きをもとに、必要な道具や一つひとつの作業にかける時間を明確化。③差別出来高給:ノルマを達成した工員と出来なかった工員で、異なる賃率で報酬を支払う。ノルマ達成へのインセンティブになりますが、ハードルが高すぎるとかえって労働者の労働意欲をそぎます。それだけに作業量の設定が大きな意味を持ちます。④職能別職長制:職長の権能を計画と執行に分けます。職長があらゆることに責任を負うと、結局勘頼みの管理になって、グループごとにばらつきが出てしまいます。

 成程、と思いました。④に関しては責任者に計画と執行の両方が任されると、確かに、融通性は高まりますが、その場限りの運用が続いてしまう可能性はあります。フォロワーが追い付けない事態が起こりやすい気がします。

 この科学的管理法を実践して成功したのが、1903年創業のフォードでした。フォード・システムと言われる大量生産方式です。

 このような時代に、ウェスタン・エレクトリック社は、現代のアメリカ最大手の電話会社「AT&T」の子会社で、電気機器の開発と製造を行っていました。1914年から1918年に起きた第1次世界大戦でアメリカは、国土が戦場になることもなく、兵器の生産と輸出で巨額の富を得て、ヨーロッパの衰退の中で、世界にその地位を確立しました。この時期のアメリカの好景気を背景に、エレクトリック社は、親会社からの大量の注文をさばく必要が出て来て、作業効率、生産能率を上げるために科学的管理法の実証を行う必要が出来てきました。

 このように生産性向上のための条件を探るために行われたのが、「ホーソン工場実験」でした。職場の物理的環境条件が生産性にどのように影響するかを探る実験として始まりました。しかし実際はどういう結果が出て来たでしょうか。なんと、案に相違して、人間関係が生産性に影響するということが突き止められました。この経過を次に見ていきたいと思います。           

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