宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

中野りなさんとルゥォ・ジャチンさんのコンサート

 久しぶりに、佐川文庫の木城館でのコンサートに行ってきました。いつ来ても、ほっとする空間です。

 今回は、2022年「第8回仙台国際音楽コンクール」のヴァイオリン部門優勝者とピアノ部門優勝者お二人の協演でした。ヴァイオリンが中野りなさん。ピアノは中国湖南省出身のルゥォ・ジャチンさん。

 この仙台国際音楽コンクールは、応募資格が27歳以下という、若手育成を目的としたものです。ヴァイオリンとピアノの2部門で、コンチェルト(協奏曲)を課題曲とします。このお二人がどうして組んで演奏することになったのだろうと、素朴な疑問が湧きました。その接点は誰だったんだろう、ということです。

 最初に演奏されたK.シマノフスキの『ヴァイオリンとピアノのための3つの詩曲❝神話❞』は、彼の代表作の一つで、中期印象主義時代の作品だそうです。ポーランドの作曲家シマノフスキは初めて聴きました。ヴァイオリンの擦れるような音が印象に残りました。印象主義音楽は、物語性や情動的表現を重視するのではなく、気分や雰囲気を表現することに重きを置いているそうです。ちょっと捉えどころのなさを感じました。

 パガニーニの『ロッシーニの❝タンクレディ❞のアリア』を、中野さんは譜面なしで、伸びやかに弾いていて素晴らしかったです。休憩の後にジャチンさんが弾いたショパンの『バラード第1番』と『スケルツォ第2番』。どちらも有名な曲で、私も大好きな曲です。熱の入った演奏でした。お二人からは、若さの持つエネルギーが伝わってきました。

 「仙台国際音楽コンクール」は2001年から3年毎に行われています。伊達政宗の仙台開府400年を記念して、「楽都仙台」を掲げて開催されるようになりました。その背景にあるのは、バブル景気で文化施設を増設し、バブル景気崩壊によって増大したホールや施設の活用が緊急の課題になったという事情です。

 1995年、世界3大音楽コンクールの一つである「チャイコフスキー国際コンクール」のジュニア部門「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール」を誘致、開催しました。この経験をもとに、市主催の「仙台国際音楽コンクール」は開催されるようになったのです。現在、音楽イベントの持つ集客力で、仙台市にもたらされる経済効果に着目した施策が展開されるようになっています。

 第2回コンクールには、日本からだけでなく世界中から応募者があり300名(日本人が3分の2)に上りました。この時のバイオリン部門優勝者は日本人でしたが、ピアノ部門は中国人でした。第3回では、ヴァイオリン部門にロシア人、ピアノ部門日本人。

 2部門開催のため賞金総額が1600万円以上と、日本の国際コンクールの中で最も高く、各部門の入賞者の賞金も世界的に高い部類に入ります。

 今回演奏された中野りなさんもルゥォ・ジャチンさんも華々しい経歴を有される若手演奏者です。中野さんのヴァイオリンは、貸与されている1716年製ストラディバリウス。ジャチンさんは、現在、ニューイングランド音楽院でダン・タイ・ソンに師事しています。

 佐川文庫のコンサートホールは、若手演奏家に演奏の場を提供しています。音楽は人に聴いてもらうことで上達する、と言われます。朝ドラ『ブギウギ』の最終回を見ていて、歌手と聴衆の「交流の場」がよく表現されていました。歌手は聴いてくれている人から何かをもらいます。聴く側が楽しんだり、励まされたりはよく聞きますが、演奏する側も受け取っている。音楽は互いに倍々返し。

 クラシック音楽は敷居が高い、とよく聞きます。私も、クラシック音楽への取っ掛かりは難しいなぁと思います。でも、人間のやること。何を手掛かりにその世界に関心を持つかは、さまざまです。音楽そのものにいきなり入れる人は少ないのではないでしょうか。作曲家の人柄や、その曲が作られた時代背景や成立の物語り、演奏する人たちの思いや人間関係など、音楽を取り巻く物語りから入ることも出来ると思います。

 私自身は、仙台国際音楽コンクールの成り立ちを知ったことで、クラシック音楽が現実的な背景と結びついて、少し身近な感覚でコンサートに行くことができました。

               2024年3月30日 木城館ステージ

h-miya@concerto.plala.or.jp