宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

『判断力批判』を読む 12)アンチノミー

 カントの理性批判は、アンチノミーから始まったと言われます。アンチノミーとは、二律背反と訳されますが、単なる矛盾とは違います。二つの命題が共に正しいか共に間違っているか、決着がつかない状態のことです。正命題と反対命題のどちらも証明できてしまう、あるいはどちらも間違っている場合、アンチノミーと言われます。

 矛盾は、どちらか一方が真で、もう一方が偽でないと成立しません。①「すべての鳥は飛ぶ」と➁「若干の鳥は飛ばない」は矛盾対立です。➁「若干の鳥は飛ばない」が真で、①「すべての鳥は飛ぶ」は偽です。例えば、ペンギンは飛ばない鳥です。このとき、①と➁は矛盾していると言います。

 「すべての鳥は飛ぶ」と「すべての鳥は飛ばない」は両方とも偽で、これは反対対立(対当)と言われます。「若干の鳥は飛ぶ」と「若干の鳥は飛ばない」は両方とも正しい小反対対立(対当)で、両方で全体を形成しています。

 カントが問題にした4つのアンチノミーがあります。第1のアンチノミーは、世界は空間的・時間的に有限か無限かを問題にしています。その証明の仕方は、反対の不可能を証明する背理法を使っています。両命題とも成立してしまいます。これがアンチノミーです。第1アンチノミーと第2アンチノミーは両方とも偽。反対対立をなしています。第3アンチノミーと第4アンチノミーは両方とも真。これも反対対立です。矛盾自体が仮象である、と石川文康さんは書いています。だから、カントの場合、矛盾を解決する弁証法ではなく、仮象矛盾を扱うという意味で弁証論と言われるわけです。

 理性批判のきっかけとなった四つのアンチノミーは、悟性概念である量・質・関係・様相を、抽象的推理に援用したところに生じていると言えます。本来、感性的現象を把握するための悟性概念を、それを越えて使用したために生じた、というのがカントの言わんとしていることです。

1月12日上野の森美術館にて撮影。クロード・モネ『ジヴェルニーの風景、雪の効果』(1886年、ヘヒト美術館、イスラエル

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