上原公子さんをお招きしての「私たちの暮らしと憲法」講演会にご参加くださった皆様、本当にありがとうございました。現実の市政の中で、憲法を武器に闘ってきましたとおっしゃった上原さん、迫力ありました。パワフルかつ柔軟な方です。
上原さんがシールズの若者たちの言葉を引いていました。「この国の平和憲法の理念は、未だ達成されていない未完のプロジェクトです」。この言葉はカントの『永遠平和のために』(1795年)を連想させます。1月に亡くなった憲法学者奥平康弘さんが最後に読み返していた本でもあります。
一見美辞麗句に聞こえる「永遠平和のために」は、当時墓碑銘として刻まれる言葉でした。ドイツ語で墓地はFriedhof、平和の庭という意味です。人間は、死んで初めて永遠の平和を得るということでしょうか。平和を論ずる書の題に墓碑銘を掲げる、恐ろしさを感じます。放っておけば墓場になりますよ、と言われているようです。
有名な部分は常備軍の段階的廃止を訴えた条項です。常備軍は、武装して出撃準備を整えていることで他国を戦争の脅威にさらす。そうすると互いに軍備の拡張が生じ、軍事費の増大が経済をひっ迫する。ついには平和の方が短期の戦争より重荷になり、この重荷を逃れるために常備軍の存在そのものが先制攻撃の対象になる、と。
カントは他の著書で、軍事力の均衡による平和の維持という考えは妄想に過ぎないとも語っているようです。このカントの思想が、日本国憲法9条の基本理念になったと言われています。
他国への武力干渉の禁止や国際連合の考え方も示されています。18世紀末に書かれた小品に平和への理念が描き出されたわけですが、この理念は、まさに、未だ達成されていない未完のプロジェクトです。
宮内ひさこ