お任せ民主主義という言葉が語られて久しいですが、上原さんの講演会でも民主主義の話が出ました。民主主義って何なのかと聞かれたら、皆さんは何と答えますか。民主的決め方については、多数決と少数者の権利について以前に書きましたが、民主主義ってなに?と聞かれると、考えてしまいますよね。
第2次世界大戦終結後、日本に民主主義の考え方を広めるため、GHQ(連合国総司令部)が日本全国津々浦々を映画をもって説明しに回っているドキュメンタリー番組を見たことがあります。そこでは民主主義とは「一人ひとりを大切にすることです」と語られていました。
それを見たとき、宮本常一さんが『庶民の発見』(講談社学術文庫)の中に書いている、日本の昭和30年代頃まで見られたという村の話し合いを思い出しました。
日本の村々は相互扶助の共同体制によって発展してきた。それは個々人の束縛を含むものだが、共同体維持のために、最も重要な役割を果たしたのが話し合いであった。話し合いは対立しあうことではなく、どこに意見の一致点を見いだすかが問題であった。そのために寄り合いがなされ、1年に6、70回、5日に1回の割合でなされていたものが多い。こうして互いに気心を知り尽くしてゆくのだと。
このような生活は、当然一軒一軒の納得がゆくまで、折り合いをつけてゆこうという努力であり、それができる生活条件があったということでもあります。それを宮本常一さんは、人びとの生きた世界の狭さと言います。そのための視野の狭さや考えの狭さはどうしようもなく、そこから起こる激烈な争いなどにも触れています。しかし、その解決の努力は絶えずなされたとも。
共同体の相互扶助を基本に置くこのような生活、これは秩序維持のために個々人が束縛されることが多いでしょう。しかし、そこでの生活では、少なくとも一軒一軒の意見は大切にされていた訳です。現代の民主主義は、この基本の単位を家ではなく、個々人に置きます。村の話し合いは重要な問題では連日連夜続けられたと言います。翻って、私たちは個々人レベルでそれをやっているでしょうか。
宮内ひさこ