宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

シュタイナー学校と特区制度

 シュタイナー教育のことを思い出しています。教育に携わろうと考えていた大学院時代、シュタイナー教育のことを友人から聞いて、何人かで勉強会をしたことがあります。

 シュタイナーは障害児教育を「教育の中の教育」と呼んでいました。ヴァルドルフ・シューレは、1919年にドイツ南部シュトゥットガルトに初めて開かれました。この学校は工場労働者の子弟を教育することを目的に、依頼されたもので、タバコ工場の共同経営モルトはシュタイナー人智学に共鳴して、彼に開校を依頼したのです。この時、シュタイナーは以下の4つを条件に出して、引き受けました。

 ①学校はあらゆる子どもたちに開かれていること。②男女共学であること。③12年の一貫教育であること。④教師たちが学校経営の中心的役割を担い、行政や財界からの影響は最小限に抑えること。

 シュタイナー教育は、一言で言えば「自由へ向けての教育」と言われます。「自由な」教育ではなく、子どもたちが人間としての「自由を獲得できるよう」育成する教育という意味です。ここに私は深い共感を覚えました。自由であるためには、そこへ向けて教育する必要があります。よく自由放任という批判がありますが、私たちは、放っておいて自分の自由を適切に行使し、守れるのか、という問題でもあります。

 シュタイナーは生まれてから成人までの時期を、七年毎に3つに区切って、それぞれの課題があると言います。第1七年期、いわゆる就学前の時期の課題は、すべての感覚を調和的に発達させるための感覚教育の徹底の時期です。ここでは芸術的体験が特に重視されています。芸術的要素は小学校へ上がってからも特に最初の七年は重視されるますが、徐々に知的部分への働き掛けを強めてゆきます。芸術の持つ、根源的な力を考えさせられます。

 日本におけるシュタイナー学校は、1987年に始まった東京シュタイナーシューレが嚆矢です。8人の1年生一クラスから始まったシュタイナー学校の芽は、少しずつ大きく育ってゆきました。学校としての教室スペース、校庭、学籍問題など幾つものハードルがありましたが、2001年に9年制に歩み出すとともに、東京都からNPO法人認証を取得しました。学校法人の取得は、2004年10月です。これは構造改革特別区域法を利用することで可能となりました。いわゆる特区制度とは、規制緩和のために特定の地域を限定して改革を行う制度です。学校法人シュタイナー学園は、神奈川県旧藤野町の廃校舎を利用し、小中一貫校の認可を受けて開校しました。

 特区制度は大きく3つに分かれます。構造改革特区、総合特区、国家戦略特区で、それぞれ構造改革特区関連法が2002年、総合特区関連法が2011年、国家戦略特区関連法は2013年に成立しています。構造改革特区の目的は、地域の活性化です。

 現在のシュタイナー校は、教育課程特例校の認定を受けています。12年一貫のシュタイナー校は、2012年1月に神奈川県知事から設置の認可が下り、旧相模原市吉野小学校の廃校舎を利用して、2012年4月に開校しました。それまでは、高等部はNPO法人のままでした。

 教育課程特例校というのは、文部科学大臣が指定学校での特別の教育課程編成を許可する制度です。シュタイナー教育におけるエポック授業やオイリュトミーなどが、その対象になります。エポック授業は、一つの教科を数週間学び続け、その後熟成させる時間を持ちます。子安美知子さんの『ミュンヘンの小学生』によると、午前中2時間弱の基本授業は、このエポック授業の形式を取っています。算数が数週間続き、次に書くエポックが数週間続く、というような形態をとります。外国語は日々の繰り返しが重要ということで、エポック方式を取りません。

 シュタイナー教育では、集中的に学んだものを吸収・消化するためには、ある期間休む時間が必要と考えます。そして、教育全体に、教育そのものが芸術行為であるというシュタイナーの考え方が、貫かれています。当時、エポック授業の考え方には、非常に興味を惹かれました。

 シュタイナー学園が、日本でも学校法人として活動していることを知り、感慨深いものがあります。

             近所のお宅のバラ(2021年5月)

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