ほとんどの小学校、中学校の校庭には桜が植えられています。私たちにとって桜はごくありふれた花ですが、同時に特別な花です。奈良時代には梅に人気がありましたが、平安時代以降、花といえば桜を指すようになりました。桜を詠んだ歌としてよく知られている二首。私も大好きな短歌です。
世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 在原業平朝臣
ねがはくは花の下にて春死なむそのきさらぎのもち月のころ 西行
私ももう少し若い頃は、桜を美しいと思っても、それだけでした。夜桜に不気味なほどの美しさを感じても、やはりそれだけでした。ただ、西行法師の「花の下にて春死なむ」の句は、深く心に染み込んだ歌でした。
お世話になった故高木きよ子先生(宗教学)も、桜に憑かれた方でした。『桜百首』のあとがきで、いつのころよりか桜の季節になると落ち着かず、「毎日桜を求めては東京中を歩き廻るのが常になった」と書かれています。紫がお好きで、おしゃれな方でした。先生を通じて、短歌の世界に触れることができましたが、私には歌心がなかったようで、残念ながら続きませんでした。それでも、私も年とともに、短歌にまた関心を持つようになり、桜の季節になると、桜を求めて車を走らせるようになりました。
さくら花はよ散れよかし咲ける間は心すずろにせんすべをなみ 高木きよ子
まだここまでは思いませんが、桜への思い入れは、日本人には強いようです。どこから来ているのでしょうか。