宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

「しかたなかったと言うてはいかんのです」

 13日に、NHKで放映されたドラマです。見るつもりはなかったのですが、ブレイディみかこさんが予告していたドキュメンタリー番組「銃後の女性たち」を予約撮りしようとしていたら、始まりました。引き込まれて観てしまいました。

 原作は熊野以素『九州大学生体解剖事件70年目の真実』(岩波書店)です。ドラマは史実をもとにしたフィクション形式になっています。作者の伯父さん鳥巣太郎さんが、ドラマの主人公鳥居太一(妻夫木聡)に当たるようです(本を読んでいないので)。どうもこの手の人体実験的なものは、気合を入れて見ようと思わないと見る気になれません。しかし、このドラマは、終戦後のGHQによる裁判と戦犯になった主人公が自らの罪は何かを問い続けるもので、「仕方ない」とも言える状況の中の罪を、一緒に考えながら見てしまいました。

 太一は、教授に命令され仕方なく手伝わされたアメリカ軍捕虜の人体実験の首謀者として裁かれ、巣鴨プリズンに死刑囚として収監されました。そしてそこで元陸軍中将で死刑囚の岡島孝輔(中原丈雄)と出会います。岡島に太一は「なぜ御自分が命令したわけでもない部下の罪まで被るのですか」と問います。岡島はそれに対して、「何もしなかった罪というものもあるんじゃないだろうか」と答えます。太一はこの「何もしなかった罪」という言葉を考え続けます。妻の房子は、首謀者にされた太一に真実の裁判を受けさせたいと奔走します。しかし、太一は、たとえ殺されることがあっても止めなければならなかったという気持ちに到達します。そして、嘆願書を書いて欲しいという房子の言葉に「できん」と応答しました。その彼の気持ちを変えさせたものは、岡島孝輔が死刑執行されるときの別れの言葉「来なさんなよ」と、巣鴨プリズンに面会に来た娘の「お父さん、行かんで」という叫びでした。

 生き続けることを選んだ太一の「しかたなかったと言うてはいかんのです」という、その後の終生を貫いた言葉は、重く響いてきました。見ごたえのあるドラマでした。

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              柴沼清作「真理の目」

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