梅雨は明けたのだろうか、と思わされるお天気です。時折の雷と雷雨が去れば梅雨明けと、天気予報では言っていますが。今週はまた雨模様の日が続きそうです。
『人新世の「資本論」』第2章は、「気候ケインズ主義の限界」です。そして、大きな政府から小さな政府へと、方向転換した新自由主義経済の考え方を修正したものが、グリーン・ニューディールで、気候ケインズ主義の立場のことです。
ケインズ主義とは、ジョン・メナード・ケインズの打ち出した「大きな政府」の考え方です。1929年の世界不況の中、ケインズは自由放任主義では経済は回復しないと考えました。政府が借金をして公共事業を拡大して雇用を生み出し、利子率も下げて貯蓄に回るお金を利潤を生みだす投資に回るようにする、ということです。この理論が『雇用・利子および貨幣の一般理論』として出版されたのが、1936年でした。
アメリカのフランクリン・ルーズベルトのニューディール政策(1933年~)は、1929年に起きた世界恐慌への対応策のことですが、公共事業の拡大や法律の改正などによって富を配り直すものでした。ニューディールとは、トランプゲームで親がトランプを配り直すときに使う言葉です。新規まき直し、やり直しの意味です。政策としては、国家が介入して富を再分配するシムテムのことです。
もともとのニューディール政策は、ケインズの理論を取り入れたということではなさそうです。ケインズの著作『雇用・利子および貨幣の一般理論』が発表されたのは1936年で、その時すでにニューディール政策は始まっていました。ルーズベルトはケインズと話した(1934年)ことはあるようですが、彼の言っていることは「統計の数字ばかりで理解できなかった」と言っているそうです。
ケインズの考え方は、政府が経済に積極的に介入して失業や不況を防ぐべきというものです。「グリーン・ニューディールは、再生可能エネルギーや電気自動車を普及させるための大型財政出動や公共投資を行う。そうやって安定した高賃金の雇用を作り出し、有効需要を増やし、景気を刺激することを目指す。好景気が、さらなる投資を生み、持続可能な緑の経済への移行を加速させると期待するのだ」(『人新世の「資本論』59頁)。これについては、斎藤幸平さんはそんなうまい話があるのか、と切り込んでいます。私も、一見よさそうな話だけど、ほんとに上手くいくのかな、と漠然と思っていました。
気候変動を好機にして経済成長を続けることを目指しているのが、気候ケインズ主義です。この「緑の経済成長」こそが資本主義の最後の砦になっていて、その旗印になっているのが「SDGs」と言われています。「SDGs」の考え方はなるほどと思うのですが、喧伝されるようになった時、これで効果あるのかなとは思いました。何もやらないよりはもちろんいいと思いましたが。
結論的に言うと、間に合わないというのが、第2章の論考です。「人新世」とはどういうことかを5月4日にまとめた時に、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)についても触れています。その部分を採録します。
地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)は、環境学者ヨハン・ロックストロームの研究チームが、2009年に提唱した概念です。地球システムの自然本来の回復力が失われる「臨界点」(ティッピング・ポイント)があります。研究チームは、9領域においてその閾値を計測し、限界点を確定しようとしました。気候変動、生物多様性の損失、窒素・リン循環、土地利用の変化、海洋酸性化、淡水消費量の増大、オゾン層の破壊、大気エアゾルの負荷、化学物質の汚染という9項目です。
ロックスローム の研究チームの測定によると、気候変動や生物多様性などの4項目は、すでにプラネタリー・バウンダリーを超えてしまっているそうです。ロックストロームは2019年にそれまでの立場を大きく変換します。彼も地球の限界に配慮する「緑の経済成長」を実現すれば、気温上昇1.5℃未満という目標を達成できるという想定のもと議論をしていました。しかし、2019年に発表した論文のタイトルは「緑の経済成長という現実逃避」というものでした。(ブログ5月4日)
この判断は、経済成長と環境負荷の「デカップリング」が現実には極めて困難ということです。 デカップリングとは、経済成長すると環境負荷が増大しますが、それを新しい技術によって切り離そうというものです。
絶対的デカップリングの一例が、二酸化炭素を排出しない電気自動車の普及です。しかし、例えば、電気自動車に不可欠のリチウムイオン電池の製造には様々なレアメタルが必要になります。このレアメタルは、多くがグローバルサウスから採掘されます。大量のレアメタル採掘が、環境破壊や水質汚染、農作物汚染、景観破壊をグローバルサウスで引き起こしています。さらに劣悪な労働条件が加わります。緑の経済成長を目指す先進諸国の取り組みは、その付けを周辺に転嫁しているにすぎないのです。

2023年7月5日、歴史館にて撮影