宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

リハビリを続ける意思と欲望

 先月の31日に、はまぎくカフェの第17回が開催されました。テーマは「倒れ記念日」でした。会の代表の石井利裕さんの体験講話です。石井さんは、2018年8月8日に脳幹梗塞で倒れ、現在もリハビリを継続しています。外から見るともう問題ないんじゃないのと見えるほど、歩くことも話すことも出来ています。でも、一度死んだ細胞は生き返らないそうです。血栓はなくなりましたが、完全回復には至らない。その代わり、周りの細胞が補完機能を果たすようです。

 前兆はあったそうです。かかりつけ医からそろそろ薬を飲んだ方がいいと言われていたとか。ただ、まだそれほどではないと思っていたそうです(正常化バイアス)。お祭りが好きで、神輿好き。2018年の8月5日から話は始まります。

 2018年8月5日は、気温36度3分で、水戸常盤神社神輿奉舁会(みこしほうよかい)の磐会(おおいわかい)の指揮の下、八角神輿をお昼過ぎに担ぎ出しました。正午ごろですが、その頃にはビールやカップ酒をかなり飲んでいて、汗が噴き出していました。熱中症で何人も倒れたそうです。翌8月6日は自転車で水戸へ。8月7日は、気温27度の中、7時半から17時半くらいまで、車庫に籠ってエンジンいじり。体調は絶好調で、8月8日の16時10分頃、突如目の前が暗くなり(視野狭窄)、身体が動かなくなりました。かかりつけ医に電話をしたら、すぐに救急車要請の指示がありました。眼は見えないのですが、耳は聞こえていて、救急車が水戸ブレインは―センターに着くまでに、踏切で2回止まったことを覚えているそうです。

 石井さんの場合、40分以内に治療が開始されました。症状が出た時刻が分かっていることはとても重要で、症状が出てから4、5時間以内なら使える強い血栓溶解療法のt‐PA(組織プラスミノーゲン活性因子)を静脈注射し、血栓を溶かすことで血流を回復することができました。それでも一度死んだ細胞は生き返りません。他の細胞の補完機能を引き出すことがリハビリの目的です。

 死んだ細胞の補完機能を引き出すには、「こうありたい」「これをやりたい」という思いの強さが有効なようです。石井さんは車の運転をどうしてもやりたいという思いを伝え、そのために脳トレの訓練も受けたそうです。二つ以上のことを同時にこなすデュアルタスク(二重課題処理)訓練の、より難易度の高いもののようです。高齢者の運転における事故は、このデュアルタスクの処理能力の低下が原因と言われます。前頭前野のワーキングメモリの機能低下が、二重課題処理能力を衰えさせるようです。

 歳をとっていくということは、今までやれていたことが困難になっていく過程です。ただ、人間は幾つになっても学び続けることができるし、その中に人生最大の喜びがある。脳は幾つになっても進化し続ける、というようなことを茂木健一郎さんがどこかで書いていました。

 

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