宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

身体図式って?

 2、3日夏日に近い気温が続いていましたが、15日はお天気が悪く、肌寒さがぶり返しました。身体が付いて行きません。この身体を私たちは通常はあまり意識していません。具合が悪いときとか、何か新しい動作を身に付けようとするときに自覚されます。自分の身体の動きに関して(痒いところに自然に手が行くとか自分が今身体を右に捻っているとか)、私たちは観察することなく分かっています。こういう身体に関する潜在的な知覚を身体図式(body schema)と言います。

 では、この身体図式とはどういうものなのか。イギリスの神経病学者ヘンリー・ヘッド(1861-1940)に由来すると言われています。ヘッドは失語症の研究で有名な人です。ヘッドたちの研究にヒントを得て、Körperschemaという用語を初めて使用したのは、旧チェコスロバキアの神経学者で精神科医のアルノルト・ピックでした。ピックやヘッドの図式概念をさらに展開したのがアメリカの神経学者パウル・F・シルダーです。そして哲学の領域で、この概念に注目したのがメルロ=ポンティ(1908-1961)です。しかし、まだ研究者間で身体図式の確立した定義はないようですが、身体図式の特徴は次のようなものです。

  1. 再帰的な意識、自覚を必要としない。身体運動を意識下で調整している主体である。したがって、ひとが身体図式に対して顕在的な知識を持っているとは限らない。
  2.  サル、ヒトの脳に共通して、大脳皮質頭頂葉連合野および運動前野が身体図式に関わっている。ヒトでは特に頭頂連合野の損傷によって、身体図式の障害が起こる。
  3. 身体図式は変容する(可塑性を持つ)。日常的には、ある道具の使用に熟達すると、私たちは道具を持っている手そのものではなく「道具の先端」で対象を感じがちである。身体図式は感覚運動学習の結果、あるいは実験的に作り出された錯覚によって、一時的に変容させることもできる。(自然科学研究機構 生理学研究所 大脳皮質機能研究系脳科学辞典』「身体図式」2015年

 メルロ=ポンティは、人間的主体を身体とする考えを一貫して持ち続けたと言われています。『知覚の現象学』(1945年)は、まず身体から始まります。身体図式という考え方は、この身体についての考察の中に頻繁に出てきます。例えば幻影肢という現象はデカルトの『省察』にも登場する現象ですが、幻影肢の考察を通して、身体図式は習慣的な運動感覚の残骸であることを超えて、身体が世界内存在であることを表現するための一つの仕方である、としています。つまり習慣的に身に付けている身体の空間の中での位置図であると同時に、その身体が世界の中にあることを表しているのが、身体図式だというのです。

 この辺りは、もう少し考えていきたいです。パリ大学での講義録「幼児の対人関係」(1950年から51年にかけての年度)は身体図式と他人知覚の問題が論じられているので、その辺りから考えてみたいと思います。

     3月30日の「弦悟郎」による津軽三味線演奏。<身に付ける>ということを考えさせられました。

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