宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

心の理論 再考

 4日、5日と結構寒かったです。今日は一段と寒さを感じました。ただ、昼間は陽が差していたので、部屋の中ではそれほど寒さは感じませんでした。

 私たちは他の人の行動を理解するとき、その人の内的なもので考えることがあります。塾のある子は、よく「○○さんはどうして『えっ?』と言ったんだろう」とか、他の子やスタッフの発言や行動が理解できないとき、『どうして△△したのか』と聞いてきます。その多くは、別に取り立てて変わった発言や行動ではありません。「○○さんは、知らなかったから驚いたんだと思うよ」というように答えます。ただ本人が納得できないことは、送っていく車の中で、また聞いてきます。自分の心の状態と異なる心の状態が存在することが、理解できていない感じがします。

 人間やチンパンジーなどの霊長類は、同種の仲間が感じ・考えていることを推測するような行動を取ります。私たちは普段あまり考えることなく、他人の行動を予測して動いています。考えてみれば、そのメカニズムがどうなっているのか、不思議ではあります。これに関しては「理論説」と「シミュレーション説」が提唱されています。これについてはまた考えてみたいと思います。

 「心の理論」という言葉は、霊長類研究者のデヴィッド・プレマックとガイ・ウッドルフが論文で使ったものです。「チンパンジーは心の理論を持つか?」(Does the Chimpanzee Have a “Theory of Mind”,1978)という風に使われました。心の理論とは、他者の心の状態を推測する能力のことです。つまり、他の存在を心を持つ存在として理解する能力があるとき、「心の理論を持つ」と言います。これを検証するために、哲学者ベネットたちが提案したのが、誤信念課題です。

 誤信念課題には標準誤信念課題(4歳から5歳くらいに達成)と非言語誤信念課題(チンパンジーなどを検査対象とする場合)、二次的誤信念課題(6歳から9歳の間に獲得)があります。さらに7歳以上の児童期の子どもの誤信念理解を調べるために社会的失言検出課題(9歳から11歳の間に通過)が考案されました。

 標準的誤信念課題には、位置移動課題と内容変化課題があります。位置移動課題の代表的なものがサリー・アン課題です。これは紙芝居や劇で提示されます。

 サリーとアンが同じ部屋で遊んでいます。サリ―が遊んでいた人形(折り紙でも何でもいい)をバスケットに入れて部屋を出ていきます。アンがその人形を別の箱に入れます。そこへサリーが戻ってきます。

 「サリーは人形をどこに探しますか」という問いに正しく答えられるかどうかの問題です。3歳児の多くは、箱と答えます。4、5歳児になるとバスケットと答えられるようになります。3歳児は「人形は今どこにあるか(現実質問)」と「最初に人形はどこにあったか(記憶質問)」には正しく答えられます。3歳児には、自分が知っている現実とサリーの信念(人形をバスケットに入れたというサリーにとっての現実)が異なることを理解することの難しさがあるようです。

 内容変化課題は、スマーティ課題が代表的なもので、これはスマーティというチョコレートの箱に鉛筆を入れておくものです。この箱に入っているものは何かを質問して、その中からチョコレート以外のものを出して見せ、またしまいます。そして、この箱の中味を見てない人が入って来て何が入っているか質問したら、どう答えるかを聞きます。3歳児は、「鉛筆」と答える、というものです。

 この心の理論問題を3~5歳の健常児、ダウン症児、自閉症児を対象に比較実験した研究があります。自閉症児群の方が知能年齢が高いにもかかわらず、課題達成率は20%でした。アスペルガー症候群の子どもや高機能自閉症児は、標準誤信念課題及び二次的誤信念課題を通過できることが示されました。しかし、社会的失言課題は難しかったそうです。これらのことから、自閉症児の社会的能力の欠如には、心の理論の欠如が関わっているのではないかという解釈が出されています。

 この心の理論の中枢領域も分かってきています。脳の特定部位の働きのみで成り立っているわけではなく、広範なネットワークで成り立っているようですが、特に基盤となっている可能性の高い部位もいくつか特定されてきているようです。

 こういうことを知っていくことで、日常的に私たちは何を得ているのでしょうか。一般的に抱く違和感を客観視できる視点には結びつくのかもしれません。そして、どういう風に対応していったらいいのか、どのような支援が出来るのかを考えていくときの土台にはなる、と思います。

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                2021年4月21日 はまぎくカフェ

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