宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

エゴグラム

 人格、パーソナリティの考え方には、哲学と心理学では違いがあります。人の命の尊厳を考えるとき、そのいのちの尊さを「人格」に結び付けたりします。これはカントに代表される人格主義の系譜と言っていいと思いますが、心理学では人格は価値的な意味を含みません。

 人格を説明する理論として、ジークムント・フロイト(1856-1939)は心の構造を自我・超自我エスに分けました。さらにそれらの存在の場所を意識と無意識に分けました。自我はほぼ意識領野ですが、防衛機制はほとんど無意識であり、前意識領野も含みます。エスは無意識領野、超自我は意識・無意識両方にまたいだ構造を持ちます。交流分析における自我状態は、フロイト的自我の説明とは言えても、理論としては別ものと捉えた方がいいでしょう。自我状態の観察可能な心的エネルギーのバランスを捉えたのが、エゴグラムです。

 エゴグラムは自我の構成を5つの要素で表現します。これは精神科医エリック・バーン(1910-1970)の交流分析(心理学パーソナリティ理論)の自我状態PAC理論をもとに、弟子のジョン・デュセイが考案した性格診断法です。交流分析は、通俗心理学との批判を受けましたが、援助職にある人たちの間では受け入れられました。

 バーンは自我状態にP(parent:親)、A(adult:大人)、C(child:子ども)の三つがあると仮定しました。デュセイはPの部分を、批判的な親CP(critical parent)と養育的親NP(nurturing parent)に分け、Cを自由な子どもFC(free child)と従順な子どもAC(adapted child)に分け、それに大人の状態Aを加えて5つに分類しました。これらの5つの部分からパーソナリティの構造を分析するのが、構造分析です。それぞれには長所と短所があります。

 CPは良心や正義感、責任感を担いますが、他人に批判的で支配的です。しかしこの部分が低いと、怠惰な性格になります。NPは優しく、愛情を持って行動し、人を世話する状態ですが、過保護になったり、お節介になったりもします。この部分が低いと冷淡な性格になります。Aは現実に適応するよう行動し、冷静に思考する状態です。短所は計算高さやコンピュータ的な人間味に欠ける所です。ここが低いとお人好しで騙され易く、計画性が欠如した状態になります。

 FCは自由奔放で好奇心が強く、活発で創造的状態ですが、衝動的で傍若無人、我儘な状態にもなります。ここが低いと、活発さがなく、おとなしくて妥協的、素直ないい子ですが、暗い印象を与えたり閉鎖的な性格傾向を持ちます。ACは協調的な心です。妥協性が高く、バランス感覚に優れ、慎重で優等生的いい子ですが、自主性に欠け、依存的で感情を押さえこんでしまう自我状態です。ここが低いと、マイペースな性格になります。

 デュセイはそれぞれの項目の分析結果をグラフにして、それをエゴグラムと呼びました。最初、彼は、勘でエゴグラムを描いていました。現在日本では、東大が開発した質問紙法を使うのが一般的のようです。

h-miya@concerto.plala.or.jp