宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

「汝自身を知れ!」(1)

 変なお天気が続いています。買い物から戻って来て驚いたのは、岡江久美子さんが新型コロナウィルス肺炎のため亡くなったというニュース。岡江さんは、『終着駅シリーズ』(原作:森村誠一)の主人公牛尾刑事の奥さん役で、お馴染です。えー、もう岡江さんの牛尾澄江は見られないんだと、瞬間に思いました。そして、コロナ侮るべからず、と再度確認。

 ここのところ、ソクラテスの「汝自身を知れ」を考えています。この言葉は、デルフォイアポロン神殿の入り口に刻まれていた碑文です。デルフォイは、古代ギリシア都市国家で、アテナイから西北へ約122キロの距離のところにあります。コリンティアコス湾の北側に接しています。藍緑色のコリンティアコス湾は、イオニア海バルカン半島に深く入りこんで出来たものです。ギリシア本土から湾で隔てられた南側に、ペロポネソス半島が形成されています。古代ギリシア世界では、デルフォイは世界のへそ(中心)と信じられていたようです。

 この時代、デルフォイの神託は最も権威のあるものでした。デルフォイの神託は、紀元前8世紀頃に確立されたと言われます。ヘロドトスの『歴史』が伝えるアテナイへの歴史上有名な二つの神託があります。ペルシア戦争時に下された二つの神託です。最初アテナイは滅亡を暗示する神託を受けます。再度使者を立て受けた神託の「木の壁のみを守りとて」の部分を「船」を指すものと解釈したテミストクレスは、三段櫂船を造らせて、サラミスの海戦で勝利しました。また、アレクサンドロス大王は、B.C.335年に、ペルシア遠征について助言を得るために、デルフォイを訪れたと言います。

 紀元後392年には、キリスト教東ローマ帝国の国教になり、後西ローマ帝国でも国教になります。最後に神託が告げられたのは、紀元後393年、ローマ皇帝テオドシウス一世が異教の神殿に活動停止を命じた時です。1000年以上に亘って、ギリシア世界に権威ある神託として受け止められていたものの終焉でした。

 この神殿に掲げられていた碑文は三つあります。「汝自身を知れ」、「過重に求めるな(分を超えるな)」、「約束をするな(無理な誓いはするな)」。前の二つの格言は、七賢人がアポロン神殿に集まって奉納したと、『プロタゴラス』(プラトン著)の中でソクラテスが語っています。真偽は分からないそうですが。

 ただこれらの碑文は、普遍的な自己認識をめぐるものと言うより、神託を聞くにあたっての規則ではないかとも解釈されています。神託を尋ねる質問の数を増やし過ぎずに(多くを求めすぎるな)、また無理な誓いを立てることなく、自分自身を顧みて(汝自身を知れ)神託を尋ねなさい、という。また別の解釈では、これは慎みの一般的規則を定めたものだとも言われます。

 ソクラテスはこの「汝自身を知れ」を自らの行動原則として「無知の知」に至ったと言われますが、これについてはまた書くことにします。

 いろいろ調べていて、ところでカイレポンは120キロ以上離れたデルフォイまでどうやって行ったのかな、と思いました。馬で行ったのでしょうか。オリュンピアの競技に馬によるものがあったようですから、馬車で行ったのでしょうか。今のところ、ちょっと調べた限りでは、どうやってデルフォイまで行ったのか、分かりませんでした。気になります。 

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