宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

旅立たれた方へ

 体調を崩された入居者さんが、搬送先の病院でお亡くなりになりました。93歳、数えで94歳でした。甚(ジン)さん(仮名)とお呼びしておきます。何となくこの漢字が当てはまるような感じの方でした。お亡くなりになってから知ったことですが、お子さんを4人無くしているそうです。残ったのは、遠方に住む3男さんだけ。奥様を無くされてからずっと一人暮らしをされていて、一人暮らしが無理になって入居されました。

 結構こだわりが強く、ご自分の体調が悪くても、最後までボンベを引いて歩いていました。私は、プライドの問題なのかと思っていましたが、他のスタッフから「人数が少ないスタッフに迷惑をかけたくないからですよ」と教えられました。

 お風呂が好きで、息切れしながらでも入浴していました。そのときも、直接の介助は嫌がられて、やり方が悪いと不機嫌になりました。直接ではない見守りを要求されていて、最初は戸惑いました。見守ってくれていないと叱られたこともありますが、「ずっと居ましたよ」と言ったら、黙られました。介助する側としては、車いすで移動してもらって、傍で介助したほうが安心だし、ある意味楽なのですが、最後の最後までご自分の意志を通されました。

 将棋が好きで、日曜日に他の入居者さんと将棋を指すことを楽しみにしていました。サチュレーションが70%ということがあって、驚いたことがあります。「苦しくないですか?」と聞いても、黙って将棋を指していました。その時は、ご自分で移動用のボンベに付け替えて、スイッチを入れ忘れていたせいで、スイッチを入れて1時間しないうちに90%代まで回復しました。

 頑固で自分のやり方を通された方ですが、人に対する自分なりの律儀さをもっていました。自分を気遣ってくれる人への感謝も、ちょっとした表情などから分かるようになりました。お亡くなりになって、ご家族のことなどを聞くと、人間としての芯の剛さを感じます。甚さん(仮名)のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

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                 甚さんの故郷の海

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