宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

キヴォーキアンと尊厳死1)

 キヴォーキアンと言えば、ドクター・デスの呼称を思い出します。2011年に亡くなっていますが、1999年に第2級殺人罪で告訴され、10~25年の不定期刑という有罪判決が下されました。その後、2007年に健康状態悪化で仮釈放されるまで刑務所に収監されていました。

 彼はアメリカの病理学担当の医師でしたが、1989年、自殺装置を作って、末期病患者の自殺ほう助を始めました。1998年9月17日にALS(筋委縮性側索硬化症)患者を自殺装置で死亡させたビデオテープが、1998年11月22日に公開放映され、世論を紛糾させました。このケースでは、ALS患者が自分で装置を作動させることが不可能だったため、キヴォーキアンが装置を作動させました。これによって、彼は告訴されたのです。それまでに、130人に及ぶ患者を自殺装置で尊厳死させています。

 日本では安楽死尊厳死も法律がないので、患者が事前指示書を書いていても、それに従った医師が罪に問われる危険性があります。

 なぜこの問題を改めて考えるようになったかと言えば、施設で高齢の方たちと日常的に接するようになったからでしょうか。認知症状を呈するようになった方々は、どうも死を望みはしないようです。むしろ、意識がしっかりしていて、身体に痛みがある方たちは、ときに「早くお迎えに来てほしい」という言葉を発します。ただ、本当に死を望んでいるのかどうか。自殺したいとまで思うのか、というと疑問に感じます。

 日本でキヴォーキアンのような人は出てくるのだろうか。自殺サイトのようなものはあるのかもしれませんが、自ら名のって出て、尊厳死を掲げて自殺装置を作って実行に移す、という人が出てくるか。橋田壽賀子さんは2016年に「安楽死で逝きたい」と宣言して、大きな反響を呼びましたが、それは彼女自身の願望の宣言であって、他人を安楽死させるとか尊厳死させる、というものではありません。

 尊厳死安楽死の問題を整理しながら、もう少し考えてみたいと思います。

h-miya@concerto.plala.or.jp