宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

「ハインツのジレンマ」を考える 1回目

 ローレンス・コールバーグ(1927-87)という 心理学者がいます。彼は道徳性の発達段階論を提示し、日本の道徳教育にも影響を与えた人です。彼は道徳的ジレンマ状況を設定して、それに対して被験者がどういう理由づけをするか、その理由づけがどう変化していくかを30年に亘って追い続けました。最初の対象者は白人中流の男性たちでしたが、後に、異文化や女性にも適用可能かどうかを調べるために実証研究を行うようになります。

 道徳的認知構造がどう変化していくかを調べるのに使った道徳的ジレンマの一つが下の「ハインツのジレンマ」です。

 

ハインツの葛藤場面 ヨーロッパで、一人の女性が非常に重い病気、それも特殊なガンにかかり、今にも死にそうでした。彼女の命が助かるかもしれないと医者が考えている薬が一つだけありました。それは、同じ町の薬屋が最近発見したある種の放射性物質でした。その薬は作るのに大変なお金がかかりました。しかし薬屋は製造に要した費用の十倍の値段をつけていました。病人の夫のハインツはお金を借りるためにあらゆる知人をたずねて回りましたが、全部で半額しか集めることができませんでした。ハインツは薬屋に、自分の妻が死にそうだとわけを話し、値段を安くしてくれるか、それとも、支払いを延期してほしいと頼みました。しかし薬屋は「だめだね。この薬は私が発見したんだ。私はこれで金儲けをするんだ」と言うのでした。そのためハインツは絶望し、妻のために薬を盗もうとその薬屋に押し入りました。

  ハインツはそうすべきであったか。またその理由は。

 

 これに対して賛成か反対かは重要ではなく、その理由づけが重要なのです。その理由づけの構造を、コールバーグは三水準六段階に分けました。このジレンマ自体にももちろんいろいろ疑問はありますが、とりあえず今日はここまでにします。

h-miya@concerto.plala.or.jp