宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

エリクソンの自我発達論

 エゴグラムエリック・バーン交流分析における自我状態から、弟子のジョン・デュセイがグラフ化を考えだしたものです。バーンはカナダ出身の精神科医ですが、エリック・エリクソンの教育分析を受け、2年間一緒に仕事をした仲でもありました。エリクソンというと、アイデンティティ(自我同一性)の理論でよく知られています。アイデンティティの問題は、エリクソンの自我発達論で言うと、第五段階の「青年期」の発達課題になります。

 エリクソンの自我発達の八段階説で、最初の第一段階「乳児期」(0~2歳)の基本的信頼の獲得の部分はよく分かります。泣いたらお乳を与えられ、抱き上げてもらえるという欲求の充足から、受け止められている感覚を抱いて基本的信頼(自己肯定感)を獲得するという、ここの部分が、生涯を通じて人間発達の基本をなしていることは分かります。以下、E.H.エリクソン/J.M.エリクソン『ライフサイクル、その完結<増補版>』(みすず書房)から、ジョアン・エリクソンが補足した「5 第九の段階」からの引用です。

「基本的信頼なしには乳児は生き延びることさえできない」、「現に生きている人は、皆、基本的信頼を獲得し、それによってある程度まで希望という強さを得ているということになる」、「基本的信頼は希望の証であり、この世の試練と人生の苦難から我々を守る一貫した支えである」、「わずかな不信がわれわれを守ることがあり、またそれなしには生き延びることは難しいことも確かなのだが」(153頁)

 第五段階の青年期における「自我同一性」の核をなすのもこの基本的信頼であると言われます。そしてこの段階が達成されると、第六段階の親密性という課題を達成できると言うのです。同一性に確信が持てるとき、初めて人は他の人との「相互に相手を見い出すために自分自身を失う能力」(89頁)という成熟した形での相互的献身である「愛」が養われます。これに失敗すると自己像への耽溺という退行や脅迫的に疑似ー親密性を求める形式的人間関係に陥ります。

 ここには自己確立を達成したもの同士にのみ、真の親密性が成立するというエリクソンの考えが出ていますが、キャロル・ギリガンが問題を提示したのもこの順序だったと思います。ギリガンは、思春期以前の少女たちの人間関係の中に真正なつながりがあったのが、思春期にそれが失われ、それをどう取り戻していくのか、ということを少女たちへの聞き取りの中で描いていました。自律の後にこそ親密性が達成されるという道筋は、成熟を個の自律・自立を基準に考えるという発想から出てくる一つの道筋ではあっても、それだけではないのではと、違和感を感じる部分でもあります。エリクソンの自我発達論は、面白いと思いますが、別の成熟、展開の視点もある気がします。

h-miya@concerto.plala.or.jp