宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

インフォームド・コンセントの前提条件

 今日は一日☂。台風18号の影響です。台風18号は午前11時半頃、鹿児島県南九州市付近に上陸し、午後5時頃、高知県宿毛市付近に再上陸したようです。そして眠くて仕方ない一日でした。

 気合を入れ直して、インフォームド・コンセントの前提条件をまとめておきたいと思います。インフォームド・コンセントは患者や被験者が与え、医療者や実験者が受け取ります。主役は患者・被験者側です。前回、インフォームド・コンセントは医療裁判における判断基準の法理として発展してきたことを書きました。患者がインフォームド・コンセントを与えるにあたって、まずどのような情報が提供されなければならないか。これは結構難しい問題をはらんでいますが、アナスがあげる7項目は次のようなものです。

 1)治療ないし処置の概要、2)その治療・処置に伴う危険性、3)その治療・処置以外の選択肢と、それに伴う利益や危険性、4)治療を行わない場合に想定される結果、5)成功する確率と何をもって成功とするか、6)回復後に残る問題と正常な日常生活に戻るまでにかかる時間、7)同じような状況下で、信頼に足る医師たちが提供している情報。

 それぞれの項目について、具体的にどのような基準でどこまで開示するかという点に関しては、1)患者の健康を守る責任のある専門家社会の慣行による基準、2)(平均的な注意力、行動力、判断力をもって行動する)合理人が自己決定権を行使するために必要な量と質という基準、3)個々の患者にとって重要な情報という主観的基準に分けられます(R.フェイドン/T.ビーチャム『インフォームド・コンセント』)。

 患者側から言えば、主観的基準での開示が望ましいと思いますが、ただこれは医師に、患者の個人的価値観や関心や性格までを直感的に理解することを要求し、医師に不当な法的負担を強いることになります。「医師は法廷で患者が後から考えた利己主義的な弁明のなすがままにされる」と論じられます。私も親知らずを抜いたとき、起こり得る可能性をいろいろ並べられて、怖くなったことがあります。客観的に言えば、その通りなのでしょうが、そこまで別に知りたくはないと思いました。その代わり、父の大腸がんの手術の時は、術後に起こり得る状態をもっと教えて置いてほしかったと思いました。

 次に成人がインフォームド・コンセントを与えるにあたって、知っておきたい前提条件は次のようなものです。

1)患者は医師に、理解し納得するまで何度でも質問してよい。質問の自由。アメリカ病院協会が作成した「患者の権利章典」(1973年)の第2項目に明確に掲げられています。2)患者が同意した医療を実施したときの責任は医師にある。「ヘルシンキ宣言」基本原則3に挙げられています。3)法律が許す範囲での患者の同意拒否権。診療を拒否したときに起こる事態について説明を受ける権利がある。4)患者の同意撤回権。医療開始前、医療開始後も可能であれば中止できる権利。この場合、医師は患者との人間関係を悪化させてはいけない。5)患者は医師を選ぶ権利を持つ。6)患者は満足の行かない診療を拒否する権利がある。しかし医師が承諾しない治療法を、医師に強制はできない。

 患者側が分からないということを言い続けるのは、難しいところがあります。結局、お任せしてしまう。確かに、最終的には信頼関係なのでしょうが、自分なりに納得できるところまでは、理解したいと思う患者も多いと思います。自分なりの落としどころを探している。そして、医療者はそれに付き合う必要がある。インフォームド・コンセントの前提条件はそういうことを言っていると思います。

h-miya@concerto.plala.or.jp