宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

『しあわせへのまわり道』そして『死刑台のエレベーター』

 『しあわせへのまわり道』(原題:Learning to Drive、2014年)と『死刑台のエレベーター』(1958年)のDVDを観ました。後者は以前にも観ましたが、その時はピンときませんでした。ストーリーで映画を観ていた時期です。

 『しあわせへのまわり道』は女性詩人の実体験に基づくエッセーが原作です。マンハッタンのアッパー・ウエスト・サイドに住む売れっ子の書評家ウェンディが、ある日突然夫から離婚を切り出され、現実問題の運転免許取得に取り組む中で、自分の人生や家族との関係を見直し、新しい旅立ちをしていく物語でした。自動車教習の教官を務めるのが、インドから政治亡命をしたダルワーン。彼はタクシー運転手をしながら、副業で自動車教習の教官をやっています。二人はぶつかり合いながらも、互いを理解しあっていきます。この二人、上手くいくのかなと思ったら、ダルワーンはインドの妹が選んだ女性を花嫁として迎えます。この二人も最初ぎくしゃくしていましたが、ウェンディーのアドバイスで、歩み寄っていきました。現実問題として分かる、と感情移入して観られる映画でした。私が女優だったら、この役はやれそうだとも感じました。でも『死刑台のエレベーター』は、本当に映像の世界でした。

 日本でもリメイク版が作られていますが、私は観ていません。『死刑台のエレベーター』は、ストーリーよりも音楽と映像の作品だと思います。パリの夜の街をジュリアン(モーリス・ロネ)を探して彷徨うフロランス(ジャンヌ・モロー)の姿に、マイルス・デイヴィスのトランペットがスタイリッシュにかぶさります。この夜のパリ、ジャンヌ・モローマイルス・デイヴィスの演奏ほど、スタイリッシュという言葉が当てはまるものはないと思います。マイルスの演奏は即興というのが定番のようですが、実際はレコーディングの前にラッシュ・フィルムを観て構想を立て、取り直しを重ねたと言われます。こちらの方が、現実味を帯びています。

 監督のルイ・マルは当時、25歳で、これがデビュー作です。現場経験1年の新人監督がこれだけのキャスティングができた背景には、大実業家で富豪の父親からの援助があったというのは有名な話です。まあ、納得ですが、本人が恵まれた環境を生かし切っていたわけで、文化はお金と時間がかかるという良い事例だと思います。この映画は完成していて、そして努力で演じられる代物ではない、と感じました。感性を前面に出している映画で、アメリカの映画にはあまり感じられないものです。フランス系の映画は『男と女』(監督 クロード・ルルーシュ、1966年)を除いて、今一つのめり込めなかったのですが、今回改めて観て、凄いなあと感じました。味覚が変わるように、映画感覚も変わっていくのでしょう。 

h-miya@concerto.plala.or.jp