宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

ゴッホ展

 風は冷たいですが、部屋の中にいると、太陽が出ていると暖かです。先週の金曜日(10日)に念願の「ゴッホ展 響き合う魂ヘレーネとフィンセント」に行ってきました。予約制で入場制限をしているので、混んではいましたが、鑑賞できないほどの人ではありませんでした。

 響き合う魂の意味が今一つ得心できないままですが、ゴッホ収集家のヘレーネ・クレラー=ミュラーの役割が分かりました。最初、身近でゴッホと関わった女性なのかと勘違いしました。そうではなく、収集家と画家の関係で、そういうかかわり方に焦点を当てながらの展覧会でした。

 ゴッホと言うと「ひまわり」なのですが、今回は太陽とかレモンとかがモチーフになった絵も紹介されていました。また彼のデッサンが多数展示されていて、デッサンの重要性が浮かび上がっていました。

 やはり圧巻は、糸杉の傑作、「夜のプロヴァンスの田舎道」(1890年)です。真ん中に糸杉が直立して、その両側に明るい星と三日月が描かれています。ヘレーネが気に入っていた作品は「レモンの籠と瓶」。何ということも無い画題で、レモンの色とか質感が言われて見ないと分からないような絵です。(+o+)、やはりヘレーネがなぜそれほど惹かれたのか分かりませんでした。

 ゴッホが画家を志したのが27歳で、自殺したのが37歳(1890年)です。彼の画家としての活動期間は10年です。短いなぁ、というのが正直なところ。

 「星月夜」はニューヨーク近代美術館が所蔵しています。本物を見てみたいなぁと思いました。

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          パンフレットと10日の東京都美術館

オミクロン株と相互依存状況

 人間は群れて生活しています。そこでは相互依存関係にある、と言えます。通常相互依存というと、協力関係を意味しますが、社会心理学ではプラスとマイナスの両方に使います。貴重な食物や資源を他人や他のグループと取り合うような場合でも、マイナスの相互依存関係が存在すると言います。何のために相互依存関係を考えるのか、という問いが学生から出ました。

 新型コロナウィルスのオミクロン株流行が、今問題になっていますが、日本を含めイギリスや欧州連合各国は、アフリカ南部からの入国制限を強化しています。南アのラマポーザ大統領は、「南アフリカや周辺国への不当な差別だ」(28日)と国内向けに演説したそうです。WHO(世界保健機関)も「オミクロン株は現在、世界の複数地域で確認されており、アフリカをターゲットにした渡航禁止措置は国際的連帯に反する」(28日)と声明を発表しました。南アのワクチン接種率は24%(28日現在)と、先進諸国に比べると明らかに遅れています。このアフリカ諸国でのワクチン接種率の遅れの問題は、以前から指摘されてきました。にもかかわらず、先進諸国は自国の状態に対応することを優先せざるを得ず、その結果がウィルスの変異に温床を作り出してしまったのか。まさに、相互依存のジレンマ状況が、新型コロナ感染において問われています。

 社会的ジレンマ問題を考えるとき、囚人のジレンマがまず引き合いに出されます。各人は自分の得を考えるなら非協力が有利です。でも集団としては協力が得なのです。二人とか顔の見える関係におけるジレンマ問題は、応報戦略(しっぺ返し戦略)が最も得になる、という結果がコンピュータシミュレーションで分かっています。最初は協力から始め、次からは、相手の出方で非協力には非協力で応じ、協力には協力で応じます。この即座にやり返すことがポイントです。私たちが普通にやっていることが、証明されたわけです。

 しかし匿名性を含むもっと規模の大きなジレンマ状況は、どうやって解決したらいいのか、まだ定説は出ていません。それでも現実に私たちは、何とか折り合いを付けようと努力しています。

 自国を守るための水際戦略には賛成ですが、それと並行して、ワクチン接種の遅れている国々の接種率を加速することに協力しないと、世界全体が巻き込まれることを、オミクロン株が突き付けています。地球温暖化問題もマイナスの相互依存状況の例です。社会の相互依存関係は、ネットでの匿名の誹謗中傷問題も含め、世界規模になっています。

 生き残りのための集団化がもたらしたマイナスの相互依存関係の仕組みを理解することは、問題解決の難しさを納得し、それに向き合おうとするシステムの開発の重要を得心することに繋がります。「誰かがやってくれるよ」ではなく、自分たちの問題でもあることが心底分かれば、リーダーを選ぶときにも、役立てようとします。自分たちにできる手段を探そうという気持ちが出てきます。

 学生の疑問への、今のところの私の回答です。

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11月26日、池坊の生花新風体で活けた花(トルコ桔梗が「用」、ヒペリカム紅葉が「主」、コボリ柳「あしらい」)。お生花(しょうか)の基本、足元を揃えること以外は、自由に発想。

健康寿命を伸ばすコツ

 17日の「第10回 はまぎくカフェ」で、ブレイン・ハートセンター院長の畑山徹先生の講話を伺いました。テーマは「脳卒中認知症から身を守るコツ」でした。

 寝たきりの50%以上を脳卒中認知症が占めるというデータの提示から、話が始まりました。この二つを減らすことが出来れば、健康寿命を伸ばすことが出来ます。

 脳卒中には脳血管が詰まる脳梗塞、血管が破れる脳出血くも膜下出血があります。血管の拡張作用がある一酸化窒素(NO)を増やすには、鼻呼吸がいいというお話。成程、だから体操で鼻呼吸を使う深呼吸が入っているんだと納得しました。カカオも血管を広げる効果があるので、95%のチョコを一日三口くらい食べるのがいいそうです。でも、95%以上カカオを含むチョコはちょっとなぁと思います。70%くらいなら、毎日でも少しずつなら食べられます。そして、温浴で体温を1度くらい上げるのがいい。末梢神経から温めるのに、38度くらいのお風呂に半身浴で10分くらい浸かるのだそうです。半身浴はどうも入った気がしない、という声もちらほらありました。

 認知症というと、やはり記憶が問題になります。これには海馬が大きく関わっています。縮んだ海馬の状態を改善するのに役立つものとして、①(楽しく)話す、②噛む、③歩く、が上げられました。しゃべると言えば女性の専売特許。女性は目的無くおしゃべりを続けることが出来て、これは男性には難しい。だから男性にはお酒とゴルフが必要との畑山先生の解釈。この辺りから、先生の話術が乗りまくり、会場は爆笑の渦。まぁ、男性でもしゃべるのが好きな人はいるし、おしゃべり苦手女子もいるので、人によりますね。

 「ここにに参加された方が私の診察を受けて下さるときは、はまぎくカフェの名前を出してください。診療費をおまけすることは出来ませんが、親切な言葉かけはたくさんさせて頂きます」には、またまた笑いの渦。

 笑う高齢者ほど健康寿命が長い、というデータも提示されていたなぁと思いながら、私も大笑いして講話を拝聴しました。

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生け花再開

 27日、久しぶりに花を活けました。他の人たちは、池坊のお生花(しょうか)新風体で活けていました。私は、少し遅れて行ったので、自由花で活けました。通常のお生花では、「真・副・控」ですが、新風体では、「主・用・あしらい」になります。私の花材だと、ボケを主にして、2本立て、後ろに用としてドラセナ、あしらいがスカシユリで前に持ってきます。

 ボケの枝ぶりに面白い味わいがあったので、それを生かして活けました。スカシユリは、蕾が開いたら黄色でした。ドラセナの葉の後ろに針金をセロテープで止めて、葉を曲げました。

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              笹、ドラセナ、スカシユリ、ボケ

薬はサポーター

 22日(金)に「はまぎくカフェ」を再開できました。昨年の10月21日(水)に「はまぎくカフェ」の第1回が開催されました。これまでに4回中止になって(新型コロナ感染拡大のため)、今回は第9回目でした。何とか開始から1年を経過出来て、嬉しい限りです。

 今回は、お薬の話第2弾「笑って楽しくお薬の話」がメイン・テーマでした。4月に「健康寿命を伸ばす薬の飲み方」というタイトルで、薬の話を乾守男さんにしてもらいました。その時、出席者の皆さんは健康寿命や薬のことを大笑いしながら考えることが出来て、大好評でした。再開に当たって、コロナで鬱屈している気分を払いのけたいという思いもあり、再度、乾さんにお願いしました。

 冒頭から、「今はコロナ問題よりも小室問題ですよね」と始まり、皆さんくすくす笑いながら講話が始まりました。ワクチンの免疫量は確かに半年すると少なくなっているそうですが、なくなるわけではなく、重症化や後遺症はかなり防げるというエビデンスが取れている、という話は嬉しかったです。欧米では、3回目は自費でという方向性も出ているとか。日本でも、コロナも2類から5類にダウングレードすることも検討されているという話もでました。そうなると、インフルエンザと同じような対応になり、ワクチン接種も原則自己負担になります。ただこれはまだ、専門家の間でも意見が割れているようです。要は、医療者のようにコロナ感染者との接触が多い人以外、3回目のワクチン接種がどれくらい必要かは疑問だ、ということのようです。

 その他、私たちが薬に頼りすぎるのはどうなのかという指摘がありました。それもお説教ではなく、笑わせながら、うなずかせてしまうやり方で。良く効く薬を求めるのではなく、薬を良く効かせるためにどんな努力が必要かを知って実践することが、重要だということです。薬はサポーターであって、主役ではないんですよ、と笑うことや楽しむこと、身体を動かして人とコミュニケーションをとることの大切さを、歌や体操も交えて伝えてくれました。

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                 10月22日(金)コミセン玄関

言語の習得と人間関係の感情的体験

 人間が関係的存在であることは、私たちにとってごく常識的なことです。しかし具体的にそれは何を言っているのでしょうか。

 現象学の「間主観性」の問題は、私が生きることが出来るのは自分の人生だけなのに、その「私」の自己理解は他者との関係と切り離せないことを言っています。「私」は他人とともに「私たち」という在り方をしています。「私」が「私たち」を構成するのではなく、「私たち」の中で「私」が構成されていくと言ったらいいでしょうか。

 言語を通して私たちは交流することが出来ます。この言語は、人間関係の中で習得されます。「私」が語る言葉は最初から共有されたものです。「私の中の何ものか」を語っているときにも、その語ることは共有された言葉でなされ、「私の中の何ものか」もまた、その言葉の影響を受けています。

 まず言語習得には幼児が特に言語に「敏感」で、話すことを学習しうる時期があると言われています。幼児がその両親に対して最も強い依存の状態にある2歳までの時期だそうです。野生児の研究や聾児への言語教育の遅れの示す結果などから、言語習得と幼児が家庭環境に入り込むこととの繋がり、及びその時期が推定されています。

 メルロ=ポンティ(1908-1961)は『眼と精神』(みすず書房、1966年)の中で、幼児の言語習得の在り様から、言語習得が対人関係の感情的経験と連帯していることを述べています。

 言語習得と幼児の環境変化の関係では、幼児に弟や妹が生まれたときに示される「赤ちゃん返り」が上げられます。これは嫉妬だと言われています。その本質は、自分の現在にしがみつこうとすることです。しかし、自分がもう末っ子ではないという状況を受け入れたとき、その幼児の態度は変わります。「私は末っ子だったが、もう末っ子ではなく、私は一番上にもなることだろう」と。これは時間的構造が習得され、<過去-現在-未来>という図式が構成されたからだと言います。

幼児が自分の家族関係を引きうけ形づくる時、それと同様に、幼児はある思考の型全体を学ぶのです。さらに幼児は、言葉のある用法全体を学び、また世界の或る知覚様式をも学ぶことになります。(『目と精神』127頁)

 思考の型全体の学びが一気に成立する瞬間がある、というのは何となくわかります。すでにいろいろな部署でパッチワーク的に進んでいる成長があって、ある瞬間、どこかが繋がって、全体が一気につながる、というイメージです。成立している知の枠組みが変動するときも、微妙に軋みだしていて、部分部分で組み換えが起こっていても、ある閾値を超えないと全体は変わらない。変わるときは、一気に変わる感じがします。

 言語の習得と人間関係の感情的体験の連帯。単純な因果的説明でないところが面白いです。

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           水戸駅エクセル北に飾られていた飯泉あやめの作品

ホーソン工場の4つの実験と人間関係論

 ホーソン工場実験は科学的管理法の実証実験として始まりました。1924年から始まりますが、最初に「照明実験」が行われ、「リレー(継電器)組み立て実験」「面接実験」「バンク配線作業実験」と全部で大きく4つ(正確には6つ)行われています。

 「照明実験」は工場内の明るさと作業能率の関係を調査する目的で始まりました。実験は対照実験で行われました。仮説は「証明が明るいと作業能率が上がる」というものです。それを証明するために、照明を暗くするとどの程度コイル巻きの作業速度が低下するかを計りました。常に明るい照明で作業を行うグループに対して、最初は明るく、実験回数を追うごとに照明を暗くしていく統制グループの作業効率を比較するという対照実験です。

 結果は案に反して、照明の明るさ・暗さという作業環境と作業能率がリンクしませんでした。常に100ワットで作業するグループの生産速度109に対し、25ワットとかなり暗い照明での生産速度が114というように。統制グループを100ワットに戻すと生産速度は116で、その時常に100ワットグループの生産速度は114でした。

 これは確かに解釈に苦しむ結果です。物理的条件が生産性を左右するという仮説が否定され、メイヨーやレスリスバーガーたちをハーバード大学から招聘して、次の実験からはハーバード大学が中心になって実験が継続されて行きました。

 「リレー組み立て実験」は、1927年4月から1929年6月までの期間に行われました。組み立て作業員5人と部品を揃えて渡す世話役1人の6人の女性従業員でグループが組まれました。賃金・休憩時間・部屋の温度などの労働条件を変えながら、リレー(継電器)の組み立てを行って、作業能率と労働条件の関係を計測するものでした。ここでも作業時間や休憩時間が直接に作業能率に影響しないことが確認されました。この補足的実験として、賃金制度の変更や割り増し賃金の支給が作業能率にどのように影響するかも実験されました。確かに作業能率を引き上げる効果はありましたが、ただし、その効果が一時的であることも判明。

 メイヨーたちは、作業能率の向上には、むしろ、次のような心理的なものが影響したのではないかと分析しています。①女性従業員は特別に選ばれたことを誇りに思っていた。②共通の友人がいて、仲間意識が高かった。③実験の目的を最初から知っていた。④国内トップクラスの大学であるハーバード大学の実験である。

 「面接実験」は1928年9月から1930年3月までの期間に、工場全体の8部門の従業員20000人以上に実施されました。これは自由に意見を話してもらう形式で実施されました。結果として、作業条件などの話は出てこなくて、個人的感情や企業内のインフォーマル組織(非公式集団)の影響の大きさが、見て取れるテストになりました。

 「バンク配線作業実験」は1931年11月から1932年5月まで行われています。「配線工」「ハンダ付け工」「検査工」の関係性の深い三グループの配線作業の様子を観察する実験です。観察者はただ観察するのみです。この実験を通して、仮説の通り自然発生的なインフォーマル組織が確認され、それが作業能率をコントロールしていることが明らかになりました。

 以上の8年にわたる実験から、メイヨーとレスリスバーガーによって人間関係論の嚆矢となる二つの仮説が出されています。

仮説1.生産能率に多きな影響を与えるのは精神的態度の変化である。

仮説2.非公式集団の存在が生産能率に大きな影響を与えている。

 もちろんこのメイヨーとレスリスバーガーのホーソン実験とそこから生まれた人間関係論に関しては批判があります。時代的な要因や作業の学習効果という観点からの批判です。しかし、ホーソン工場実験と人間関係論の登場が、その後の経営学における考え方を大きく変えたことは事実です。

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      花瓶の両側のろうそくは、2日に放課後等デイサービスで制作

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