宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

『男はつらいよ』と日本人

 日本人の人間関係をテーマにした回で、『男はつらいよ』の話をしました。そして授業の後半で、観られる部分まで観てもらいましたが、思ったより面白かった・全部今度観てみます、というような感想が結構ありました。

 『男はつらいよ』は全48作、そして特別篇が49作目に作られています。一人の俳優が主演し続けたもっとも長い映画シリーズとして、1983年に30作目が上映されたとき、ギネスブック(正式には『ギネス世界記録』)に載りました。

 ギネス世界記録は、世界一を収集する書籍ですが、アイルランドのビール会社ギネス醸造所の代表取締役のサー・ヒュー・ビーバーの発案で始まりました。仲間と狩りに行ったときに、世界一速く飛べる鳥はヨーロッパナグロかライチョウか、という議論になり、これに結論が出ませんでした。ビーバーは、もしこうしたことを集めて載せた本があったら評判になるのではと思いついて、ロンドンで調査業務を行っていたマクワーターたちに調査と出版を依頼しました。初版は1955年に『ギネスブック・オブ・レコーズ』として発売され、2000年にギネス醸造所から独立して、『ギネス・ワールド・レコーズ』に改称されました。

 寅さんの話に戻りますが、ストーリー自体は定型化されています。様式化という点では『水戸黄門』と似たようなものと言えます。寅さんが人情や人の道について語るとき、内容自体はごくまともなものです。普通に常識的生き方をしている人が説教したら、聞いている方は思わず「はいはい、その通り」と立ち上がってしまいそうなものです。でも、寅さんが語ると、なんかしみじみと響いてきます。その後、すぐにずっこけることが入るのですが、これもお約束。

 台本のセリフだけを読んでいたら、それほど笑える内容ではない気がします。ごく当たり前の日本人の姿が描かれている。そこは役者のうまさと「フーテンの寅」の人物設定で、人情喜劇として国民的人気シリーズになったと思います。ありきたりだった日本の風景、生活叙景、心の在り様など、どんどん失われていっているもののデコパージュ。それが寅さんの「葛飾柴又帝釈天の門前にあるとらや」という故郷として形を成し、日本人の故郷心象に訴えかけます。

 山田洋次監督は、日本人の優しい性質を描きたかったと、色々なインタビューで言っているようです。小津安二郎は日本人のあり様を昇華させて描いていて、そこに凄さを感じますが、山田洋次はもっと人間臭く人間を描いている。私は、山田洋次という人のまなざしに恐ろしさを感じます。

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