宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

コールバーグの道徳性の発達段階論1)

 キャロル・ギリガンのケアの倫理を考えるにあたって、ローレンス・コールバーグの道徳性の発達段階論をまず抑えておく必要があります。ギリガンのケアの倫理は、このコールバーグの理論への批判あるいはその一面性の指摘として出てきたからです。

 コールバーグ(Lawrence Kohlberg 1927~87)は精神病院で心理学のインターンとして働いていましたが、臨床心理学の道徳概念に疑問を感じインターンを辞めます。そして、10歳から16歳の子どもの道徳判断の発達に関する博士論文の研究に着手しました。

 コールバーグの道徳性発達理論の中心は、「認知論」と「普遍主義」であると言われます。前者について彼は、ジョン・デューイ、G・H・ミード、J・M・ボールドウィン、ジャン・ピアジェと、自分の道徳理論に関する一連の仮説を認知発達的理論と言っています。これは表面的な道徳的行動や道徳的知識を問題にするのでなく、道徳的判断の背後にある認知(物事について知る)構造に焦点を当てています。

 1928年~30年になされたハーツホーンとメイの「ごまかし」に関する研究は、どんな人も状況によって「ごまかし」を行うという衝撃的結果を導き出しました。この研究は、道徳的言葉や表面的に受け入れられた徳目が道徳的行動を導くとは言えないことを明らかにしました。なぜなら、ごまかしをする人も、しない人と同じようにごまかすことはいけないと言うからです。しかし、コールバーグの道徳的認知構造の研究の結果、人が状況によって「ごまかし」をしたりしなかったりすることを、論理的に説明することができるようになりました。そして道徳的発達段階が上がるにつれて、「ごまかし」が減ることが統計学的に有意であることも言われました。つまり、道徳的に成熟した人間は、もろもろの規則に従うのでなく「正義の原理によって行動」しています。そしてこの成熟は、認知的発達に支えられているのです。

 次に、彼が主張した「普遍主義」というのは、文化や時代を超えて共通の(普遍的な)道徳的判断の「形式」が存在するということです。道徳規範(内容)がどこでも同じと言っているわけではありません。そしてこのような考え方の実践が道徳的発達段階の設定であり、その判定法です。これらは何度も改定されています。しかし道徳性の段階が存在するという考え方は、修正されることのない中心的前提です。

 コールバーグはこれを次のように述べています。①段階とは、思考と選択における質的に異なる構造と形式のことです。その内容とは区別されます。②段階は「構造を持った統一体」です。個人の道徳判断のレベルは、葛藤場面や規範が違っても一貫しています。③段階は、一定不変の連続性を示します。個人は段階を飛び越えたり、後退したりすることはありません。発達速度に違いはあっても、発達の段階に文化による違いはありません。④段階は「階層的に統合されたもの」です。可能な最も高い段階で思考し、最も高い段階を好む傾向があります。

 彼は以上の道徳性の段階の概念を前提に、最初の被験者(男性)たちを対象に30年にわたって縦断的研究を行いました。後に異文化や女性にも適用可能かどうかを確かめるために、別の縦断的研究を行うようになります。次回は、コールバーグの道徳性の発達段階の考え方を具体的に理解するために、ジレンマを使いながら3水準6段階の話を書きたいと思います。

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