宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

福祉とは

 『石のぬくもり』、毎日少しずつ読んでいます。1978年9月の日記には、老人福祉週間にほご募金を行っている話が出てきます。ホームの中の清貧を集めて、地域福祉に参加しようやと始めたそうです。これはガリラヤ荘独自の赤い羽根運動ですが、「財布のヒモをほどく年寄りたちの心の中に、福祉の意味を重く深く考えさせられるときであった」、「無表情に百円玉を一つ投げこむ者、千円札をもってあとからおいかけてくる者、この日のために無駄使いをせずにためたお金を出す人など、いろいろである」。

 ガリラヤ荘は愛媛県旧川内町(現東温市)の特別養護老人ホームです。稲葉先生はここで7年間園長を務めました。その前は、県庁に勤めていて、老人ホームとの出会いは老人施設係でした。昭和48年から4年間に、10余りのホームを作ったそうです。最初は立派なホームができることに、日本の高度経済成長期と時を合わせ、何の疑問も感じなかったとあります。でもそのうちに、老人ホームの在り方や老人福祉の意味が分かるほど怖くなりました。立派なホームができるほどに、老人たちは家族や地域から切り離されているのではないかという。

 稲葉先生は「老人福祉は、経済大国や高齢社会の故をもって考えられたり行われたりするのではなく、人間の意味と歴史が平和を守り追及してゆく中に、すべての人々の参加によって創造されるものでありたいと思う」と書きます。福祉とは何か、どうあるべきか、稲葉先生のまん丸い顔を思い出しながら、先生の問いかけを考えてゆきたいと思います。                             

                                 宮内 ひさこ

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