宮内寿子「おはなしのへや」

日々、思うこと。

石のぬくもり

 稲葉峯雄さん(2008年没)が書かれた『石のぬくもりー人間学校・老人ホームからー』を読み始めました。これは稲葉さんの老人ホームの園長日記を中心にまとめられた本です。稲葉先生とは、松山東雲短期大学で出会いました。私が就職した生活文化専攻には福祉コースがあって、そこに非常勤でいらしてました。福祉の世界に目を開かせてくれた方です。

 先生が主催していた「地域福祉をすゝめる会」に参加したとき、先生が老人ホーム「ガリラヤ荘」で園長をしていた時代にボランティアで入って、先生の活動に魅せられ仕事をやめて老人福祉の世界に入った若い人がいました。一生の進路に影響を与えてしまう存在との出会い、話では聞いていてもあるいは本で読んでいても、現実にそういう体験をしている人との出会いは驚きでした。特に福祉という大変な世界に若い男性を転身させる稲葉先生という存在に、まん丸い感じの柔和で60代半ばくらいの稲葉先生のどこにそんな力があるのか不思議でした。

 先生から頂いた書道展『石のぬくもり展』の小冊子は、ホームの老人たちの言葉を、何人かの書家が書いて移動展覧会をしたときのものです。読みながら、思わず涙が出てくるようなそんな小冊子でした。稲葉先生の老人への眼差しの暖かさと老人福祉に寄せる眼差しの真摯さを感じました。

 『石のぬくもり展』の元になっている『石のぬくもり』を読みたい、読まなければと思いながら、四半世紀以上が経ってしまいました。それでも今、この本を手に取っていることの不可思議さ。出会いの不思議さを思います。         宮内 ひさこ

 

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